夜の帳が下りるころ、
調査報告書のご依頼者の手に渡った。
中には数十枚の写真、動画データ、
そして淡々と記された報告書。
そのどれもが「真実」であり、
同時に“知りたくなかった現実”でもあった。
◆ 写真の中の笑顔
写真には、奥様が映っていた。
あの日、いつもより明るい服を着て、
どこか弾むような足取りで男性の車に乗り込む姿。
そしてその横には、
穏やかな表情を浮かべる男性の姿。
“幸せそう”に見えた。
それが、胸を締めつけた。
「どうして… こんな表情、久しく見ていなかったな。」
ご依頼者は写真を一枚一枚めくりながら、
静かに呟いた。
怒りでも、涙でもない。
そこにあったのは、
長い年月の中で失われた“ぬくもり”への喪失 だったのです。
◆ 探偵の報告が終わったあと
私たちは、淡々と報告内容を伝え終えた。
尾行の経過、滞在時間、複数回の密 会。
誰が見ても、言い逃れのできない証拠。
だがその場に沈黙が落ちたとき、
ご依頼者は意外な言葉を口にした。
「…感謝しています。
怒りよりも、やっと“確かめられた”という気持ちです。」
彼は、報告書をそっと閉じ、深く息を吐いた。
「この現実を受け入れて、
それでも自分の人生をやり直す。
そのために、ここに来たんです。」
その表情には、どこか清々しささえあった。
◆ すれ違いの果てに見えたもの
後日、私たちは再び彼と面談した。
離婚調停の準備が進む一方で、
彼は淡々と、そして穏やかに話した。
「妻を責める気持ちは、もうありません。
ただ、僕たちは互いの想いを
伝え合う努力を忘れてしまっていたんです。」
愛情が冷めたのではなく、
“見えなくなっていた”だけだったのかもしれない。
それを教えてくれたのは、
皮肉にも——浮気の証拠写真だった。
◆ 新しい朝
数週間後、彼から一通のメールが届いた。
「すべてが終わりました。
でも不思議と、心は穏やかです。
今は、もう一度“人を信じる”練習をしています。」
添付されていたのは、
引っ越し先の新しい部屋から撮った朝焼けの写真。
カーテン越しの光が柔らかく差し込み、
そこにはもう、過去の影はなかった。
◆ ひとつの願い
浮気調査は、ただ「裏切りを暴く」仕事ではない。
それは、壊れた心を再び動かすための“再生の手段”でもある。
真実を知ることは痛みを伴う。
だが、知らなければ前には進めない。
私たち探偵の役目は、
その痛みを「新しい一歩」へと変えるお手伝いをいたします。
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